2.4 商標の使用

 法2条3項は、以下の行為を「使用」と定義しています。

 条文上は「標章」という文言が用いられていますが、「標章」を商品役務について使用する場合が「商標」なので、「商標」の「使用」も法2条3項で定義された「使用」と同じです。

「一 商品又は商品の包装に標章を付する行為

二 商品又は商品の包装に標章を付したものを譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、又は電気通信回線を通じて提供する行為

三 役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物(譲渡し、又は貸し渡す物を含む。以下同じ。)に標章を付する行為

四 役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に標章を付したものを用いて役務を提供する行為

五 役務の提供の用に供する物(役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物を含む。以下同じ。)に標章を付したものを役務の提供のために展示する行為

六 役務の提供に当たりその提供を受ける者の当該役務の提供に係る物に標章を付する行為

七 電磁的方法(電子的方法、磁気的方法その他人の知覚によつては認識することができない方法をいう。以下同じ。)により行う映像面を介した役務の提供に当たりその映像面に標章を表示して役務を提供する行為

八 商品若しくは役務に関する広告、価格表若しくは取引書類に標章を付して展示し、若しくは頒布し、又はこれらを内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為

九 音の標章にあつては、前各号に掲げるもののほか、商品の譲渡若しくは引渡し又は役務の提供のために音の標章を発する行為

十 前各号に掲げるもののほか、政令で定める行為」

 法2条3項で定義された「使用」に該当しない場合、たとえば、他人の登録商標を法人の商号として登記申請して登記簿に記載させる行為は、いかに自他商品識別機能を害するとしても、「使用」に該当せず、原則として商標権侵害に該当しません(ただし、「使用」に該当しない場合に全く商標権侵害が成立しないかについては後述のように議論があります。)。

 他方、法2条3項で定義された「使用」に該当したとしても、商標が商品の出所識別のための標識であることからすれば、かかる識別標識として使用されていない場合には商標権侵害行為には該当しないことになります。

 たとえば模様やデザインとしての使用[1]、商品の内容表示[2]などが挙げられます。

 これらの使用形態について、従来は「商標的使用」に該当しないという説明がなされてきました。しかし平成26年商標法改正(平成26年5月14日法律第36号)により商標法26条1項6号が設けられ、「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができる態様により使用されていない商標」には商標権の効力は及ばないとしました[3]


[1] 「ポパイ」事件①判決(大阪地判昭和51.2.24無体集8.1.102)は、ポパイの絵柄をアンダーシャツの胸部に大きく描く行為は、デザインとしての使用であり商標の「使用」にあたらないとしました。他方、「ポパイ」事件②判決(大阪地判昭和59.2.28無体集16.1.138)はマフラーの一方隅部分にワンポイントマークとして付された「POPEYE」の標章は商標の「使用」に当たるとしました。

[2] 以下の裁判例は、平成26年商標法改正前のものですが、いずれも商標的使用に当たらないか、または、商標権の効力は及ばないとした法第26条第1項第2号に当たるとして、商標権侵害を否定したものです。

「テレビまんが」事件判決(東京地判昭和55.7.11無体集12.2.304)は、カルタの左上隅部に表示された「テレビまんが」は、そのカルタがテレビ漫画映画「一休さん」を基に作られたものであることを表示するに過ぎないとして、「娯楽用具」等を指定商品とする「テレビまんが」商標の商標権侵害を否定しました。

「通行手形」事件判決(東京地判昭和62.8.28無体集19.2.277)は、将棋の駒形の木札の頂部に鈴を結んだつり紐を設けて室内各所に吊り下げることができるようにした商品の、木札の一方の面の中央部に大文字で「通行手形」と縦書きし、その他神仏の加護を受ける文字や名所旧跡、歴史上の人物等の文字、絵をデザインした行為が、「壁掛け、柱掛け」を指定商品とする「通行手形」商標の商標権を侵害するかが争われた事案において、この事件の商品上の「通行手形」の文字は、商品が通常歴史上実際に用いられた通行手形を模したものであることを表現し、説明するために用いられたものであって、自他商品識別機能を果たす態様で用いられたものではないとして、商標権侵害を否定しました。

「ロビンソン」事件判決(大阪地判平成2.10.9無体集22.3.651)は、日本の「ROBINSON」商標の商標権者が、アメリカ合衆国の著名なヘリコプターメーカーのロビンソン社のヘリコプターを並行輸入する日本業者に対して商標権侵害を理由として訴えた事案において、①ヘリコプターの機体に、製造業者であるロビンソン社の所在地、製品名及び製造番号等とともに表示した行為は、当該指定商品の産地、品質、形状を普通に用いられる方法で表示する場合には、商標権の効力は及ばないとした法第26条第1項第2号に該当するかこれに準ずるものと考えられるので、商標権の侵害とならない、②宣伝用パンフレットに、メーカー名の略称、型番を表示した行為は、航空機の形式を特定するための慣用的な方法となっているから、法第26条第1項第3号から、商標権侵害とならない、③宣伝用パンフレットの、「ロビンソン社製ヘリコプター 直輸入特約店」といった表示をすることは被告が取り扱う航空機(ヘリコプター)を「ロビンソン」なる表示を用いて識別させるものであるから、慣用的な方法に従ったものとはいえず、商標権侵害となるとしました。

[3] 平成26年商標法改正は平成27年4月1日に施行され(平成26年法律第36号附則,特許法等の一部を改正する法律の施行期日を定める政令(平成27年1月28日政令第25号)),経過措置がないため,施行日前の行為にも適用されます(知財高判平成27年7月16日(平成26年(ネ)第10098号)参照)。